カウンセラーコラム

2015-09-28【恋愛】

私の赤い靴
今朝、靴を一足捨てました。燃えるゴミのところに。
セルジオロッシの赤い靴。そして、靴を一足下ろしました。
私のセルジオロッシの赤い靴。

年の離れた彼がいました。もう何年も前に、3年ほど。
幼くて、何も知らない、まだほんの子供だった頃。
付き合い始めて間もなく、私は本当にこの人が好きだと思い込んでしまいました。
お金も要らない、あなただけが欲しい、と。
そんなわけないのに。

男の人が女の人に求める役割は大きく2つあると思うのです。
帰る場所と、立ち寄る場所。
私は立ち寄られる場所だったのに、帰ってくる場所になりたがりました。

彼はとても都合が良い人でした。彼の性格も、そして私にとっても。
若くして成功した彼は、期待を裏切らないバブリーな人でした。
ホテルのバーで数十万のボトルを入れ、支配人と仲良さげに話をします。
たわいもない、どうでもいい世間話を。

支配人が立ち去ると、低くてしっとりとした声で、
「君が甘えてくる様が、まぶたの裏に焼き付いて離れないよ」
しっかり言い間違いをしてくれます。
裏だと見えないですよって、教えてあげなかったけど。

帰り際、私が悲しい顔をするといつも、
「そんな顔されると困っちゃうな。悲しい思いさせるならもう会わない方がいいのかなあ」
と静かに脅してきました。

私は彼の気持ちをちゃんとした恋愛に向かせようと必死でした・・のつもりになっていました。
だって、彼が帰っていくと、ちょっと清々することをちゃんと分かっていましたから。

彼は私と会う何年も前から奥様とは別々に住み、お子さんも既に独立されていたので、1人悠々と暮らしていました。
もし彼が女性に帰る場所を求めていたとしたら、そもそも奥様と別居はしなかったでしょうし、離婚するということで別居をしているとしたら、私との関係も早い段階から先に進むことを望んだでしょう。

2年経った頃、いつもの調子で彼は、
「全て片付けるからね」と。
いつもの低くてしっとりとした声で、甘く囁きました。
私は嬉しそうにはにかみ、彼の首に腕をまわしながら達成感を感じました。
週1のペースで会い、すべきことをし、貰うべきものを貰う。
これは恋愛おままごとだから、ちゃんと甘い言葉も言わないとね。
お互いの立場と役割が明確で、先に行きたい振りをして絶対に踏み出さない。システマティックな関係だったのに。
彼は意図して関係を終わらそうとしたのか、熱にうなされてしまったのか、何れにしろ彼は踏み間違えてしまったのです。
いつもの言い間違いみたいに、かるく。

もう恋愛も終わりかけているのを、なんとかしなければと、お互いに、バラバラにもがいていました。
一緒に買い物に行った時に買ってくれた、歩きづらくて見た目の為だけの赤い靴。
それから彼と別れるまでの1年間、一度も履きませんでした。
彼の為に痛みを我慢して着飾るだけの情熱も無くなっていましたから。

彼と離れ、別の年の離れた人の為に何回か履きました。
そのたびにストラップが擦れ足首に擦傷が残るので、その赤い靴はやっぱり好きになれませんでした。
早く捨てたかったのです、赤い靴と一緒に彼らのことも・・本当は彼らに甘えていた自分を捨てたかったのだと思います。

年の離れた彼らは、今はもういません。
だから今度は、自分で頑張って得た収入で、歩ける赤い靴を買いました。
もうこれは、私の赤い靴です。
2015年 産業カウンセラー資格取得
メールカウンセラー
夢分析セラピスト